※名前についての話。微ねつ造


飼殺


「アルバ。」

「…え?」

 腕を組んで、にやにやと人の悪い笑みを張りつける。これは間違いなく戦士だ。二言目には、いや一言目から辛辣で悪逆非道な戦士。何の因果かパートナー。

「返事もできないんですか?言葉通じない?あっもしかして動物でしたぁ?アルバさん。すみませんそうとは知らず人間様の言葉を使ってしまいました。」

 間違いない、戦士だった。

「違うよ人間だよ言葉通じてるし!!そうじゃなくて!」

「そうじゃなくて?」

「いや…戦士がボクのこと名前で呼ぶの珍しいなって。」

「呼んじゃいけませんか?」

「別に…良い、けど。」

「アルバさん。」

「…なに。」

「アルバさんアルバさんアルバさんアルバさん。」

 どうです?たくさん名前呼ばれて、気持ち良いですか?悪いですか?どんな風に感じましたか?

「ボ、クは…。」

 骨ばった手が、顎に触れた。砕かれるのかという恐怖に一瞬身がすくむ。しかし彼は自分を痛めつけているときよりももっともっと愉しそうな目で見るのだ。
侵食していきませんか?じっとりと、ひたひたと、足元から水が染みわたって、服が重くなり、やがて肺のあたりまでせまってきて、そうして貴方は苦しそうに水面に顔を出すんです。

 本当だ。呼吸がままならなくなって、口がどんどん乾いていく。体内は水分でいっぱいなのに、唇が歯が、喉が、すべて乾いてしまってはりついた。心臓の中にぼろぼろと固くて不揃いなブロックを落とされて、それが中でバランス悪く重なってせり上がってくる。
絆されるなんてものじゃない、もっと切迫していて粗暴だ。呪いみたいだ。
 
 ボクは魚のように唇をぱくぱくと動かして、そんな様子を見て彼はとても愛おしそうに、それでいて呆れた顔で、落胆しているかのように、駄目ですねぇ、なんて呟く。
駄目だよもう駄目だ。駄目かも知れない。こんなに呆気なく引きちぎられてしまって非常に遺憾だが、もう駄目だった。彼の口が再び言葉を発するために開く。それをボクはどうしても阻止しなくてはならなくて、負けじと、放つ言葉も用意しないままに口を動かす。


「ゴミ山さん。」

 呆気なく、呆気なく。いつものように馬鹿にしきった顔で笑ってひらひらと去って行くので、ボクは慌てて口を塞いだ。