※学パロロスアル ※ものでも良いから繋がりたい彼と、こころで繋がりたい彼 ※フォロワーさんのネタ【ピアス】お借りしました 意気地 「痛いのはやだよ。」 はぁ?と、呆れた声を出す。痛いのは嫌だ、何を今更。毎日毎日あれだけ虐められておいてまだそんなことを言うのか。 真剣な目をして言う少年を頭からつま先まで眺めた。 「痛いのは、やだ。」 もう一度繰り返して彼は目を瞑る。虐めてください、と言っているようなものだ。それも、できるだけあとに引くような、ゆっくり効いてくるような痛みをもって。 部長ー、と間延びした声で呼ぶと結んだ口を居心地悪そうに動かした。わかってるなら無駄な抵抗なんてしなければいいのにな。 まぁでも、これは彼なりの矜持なのだろう。ここまでは許すよ、でもここからは駄目だ、と。そんなもの明日の朝にはひっくるめてオッケー。有耶無耶になってオッケー。俺がやることだから結局はオッケー。 手に持ったピアッサーを弄ぶと目線をそちらに移して引き攣っていた。 「痛くないですって。一瞬ですよ。」 一瞬で、一瞬で貴方の耳には穴が開く。少しだけ口元を横に引っ張って歪んだ顔をする。俺はその顔を一秒だけ眺めてガーゼを当てる。そうしたら貴方は目をおどおどさせて、消毒をしている俺の手に自分の手を重ねる。 もちろん貴方の耳に似合う色は赤だ。俺と貴方を繋ぐ色はこれしかない。あとはもう遥か彼方に捨ててきてしまった。 片耳にだけ赤い色を宛てがおう。彼はその色の重みで傾いてしまわないだろうか。重い重いと、身体を傾けて訴える部長が夢に出てきたら、俺はもう片方の耳に唇を寄せて、同じぐらいの色をプレゼントしてやるのだ。 本当は今すぐにでも赤色を置きたい。それが置かれることを頭の中で想像しながらキャッチを手に取って埋め込む。それを見て俺は笑うのだ。ほら似合わない、貴方にはピアスなんて似合わない。貴方は俺の赤が相応しいだけでピアスなんてものは似合わないのだ。 もしかしたらただの嫉妬かも知れない。貴方の身体のほんの一部にでも、塞がらない傷を作れることに。だからせめて俺が穴を開けよう。どうせ自分でやったら貴方のことだ、顔色を伺うようにこちらを見て、ため息をついて、よぎった恐怖を拭い去らないまま手を握るから、きちんと貫通せずに中途半端に肉が絶たれる。 「なんなんですか部長!せっかくこの俺が開けてあげるって言ってるんですよ!」 「なにその上から目線!ボク頼んでないよね!?」 カシャカシャと忙しなく右手を動かす。部長が気まずそうに耳たぶを触っている。きっと少し冷たくて、柔らかいのだろう。部長が抵抗をしたら手のひらで首と、顎から頬をいっぺんに押さえつけて、鼻の頭に噛み付いてやろう。そうして驚いている間に任務を遂行しよう。でも部長、あんまり動くと手元が狂って変なところに開いちゃうかも知れないんです。だから、拒絶はしないで下さいね。 今日もこうして30分も押し問答を続けている。昨日も一昨日も、そのまた前日も、痛いから嫌だ、怖いから嫌だと拒否をされた。 「絶対痛くしませんから。」 部長が再び目を瞑る。自分のことになると途端に不誠実になる彼を俺はなんだかんだで許してしまっている。 「…なんかね、お前のものになるみたいで嫌なんだよ。」 そう、ここにきて申し訳なさそうに笑うのだ。どうせ赤いピアスでも用意してるんでしょ?と付け足される。そこまでわかっているのなら、いい加減観念して俺のものになってしまえばいいのに。それなのに彼はいつも言葉を変えて逃げる。そして俺はそれを捕まえられない。 「それにほら、痛くなくても、痛そうだから、やだ。」 そんなの、俺の痛みに比べたら砂粒みたいなものだ。ミジンコみたいなものだ。 柄にもなく泣きそうな気分を胸の中で砕いて、赤の油性マジックを彼の耳たぶに押し付けた。 |