※大学生パロ


シュレーディンガーの酒飲み


 飲み会なんて悪夢だ、と村田は思うわけだ。それが宅飲みだと尚更。缶ビールの空き缶を握りつぶして、こめかみに青筋を浮かべる。明らかに怒ってます、と主張しているのに当の本人はどこふく風で先程から女子に男子に色目を使いまくっている。自分が合コンだとすっごい怒るくせに。もう助けない、今度こそは見捨てる、見放す。そう思って藤田が乗るベッドから背を向けて、新しい缶を開ける。正直こんな量じゃ酔えない。それでも場の雰囲気にすぐにあてられる藤田は、今日も早々に酔っ払ってとろんとした目をしていた。中途半端にシラフだと本当に損だと思う。同学年が勝手に盛り上がって部屋の隅でキスをする。そんなもの見たくもないのに目に入ってくるのだ。モラル。品性。常識。ガラガラと音を立てて崩れていく理に頭痛を感じながら物静かになった背後を覗いてみれば、最悪なことに自分の恋人がまた男を誘いあげていた。
「ちょ、何やって、藤田ちゃん!」
 チューハイなんて放り出して慌てて藤田と男を引き剥がした。俺なんでこいつのことなんか好きなんだろう。ぼーっとしながらシャツに手をかけている藤田の頭を少し強い力で叩くと、大層不満そうな顔をされた。
「あのさ、藤田ちゃん自分が何やってるかそろそろ自覚し」
 て、と言葉を続けようとすると、藤田がまた目細めて悪い顔をした。あ、まずいな、と頭が警告を発するより先に、ぐんと近付いてきていた藤田が指を自分のズボンに滑らせる。
 酒飲んでるから、勃つ、かなぁ。なんて、既にヤる気満々なことを考える。まぁ、最初からヤるつもりではあった。仕返し的な、お仕置き的な意味をこめて。もっと単純に、欲求不満を解消するために、そして好きだから、ヤりたくなった。
「じゃ、村田が相手してくれんだろ?」
 こんな量じゃ酔えない。彼は果たして酔っていたのかいなかったのか。
 真偽の程は明日の朝ゆっくり聞くとして、心の中で一度だけ、ベッドの持ち主に謝った。