※アルバくんがただただへんたい ※アルバくんエム説 ※アルバくん自慰 ※現代 フレンド へんたい、と頭の中で声がする。表面は冷たいのに中はどろどろした興奮をおさえるのに必死だ。当たり前か、とボクは思う。 指紋をべったりとつけてガラスの面をさわる。鏡の中のボクはだらしなく口を開けていて、発情している。鼻をすんと鳴らして、舌を出した。身を乗り出して舌 先を鏡の表面に近づける。顔を鏡に近づければ近づけるほど、馬鹿みたいに焦った自分がよく見える。恥ずかしい。怖い。それでも、気持ち良さそうだ。舌をくっつけるだけ。ただその対象がいつもとちょっと違うだけ。 重なる4つの目はどれも欲がうずいていて、にぶい光をたたえている。もう少し、もう少しだ。自分と目が合うのが嫌で泳がせていたら赤い舌が写った。まだ足りない、あともうちょっと。舐めたら何処か取り返しの付かない場所に至ってしまいそうで怖かった。後ろで聞こえていた車の音も、電車の音も霞んで、自分の息遣いしか聞こえなくなる。つぶりたくなる目をこじ開けて舌を強く押し出す。当たった。鏡だ。 ボクは今、舌を出して鏡を舐めている。 冷たくもない、でも温かいわけでもない。無機質な温度をたたえて、鏡はボクの前にいる。鏡はボクを静かに映している。 口をもう一つ開けて、洗面台の上に一層乗り出して、下から上へ舐めあげる。自分とキスをしているみたいだ。それもとびっきり濃いやつ。よくない熱がお尻に集まってきて、赤くなる。鏡の中のボクも一緒に赤くなって、でもその顔はどこか高揚しているようにも見える。うそだ、うそだうそだボクは興奮してなんかいない。そうやって否定する言葉は、笑ったボクの口から放たれる。すぐに哄笑がその言葉を飲み込んで、ボクは左手を後ろに伸ばしていく。 もう一人のボクがいつまでたっても解放してくれないから、ボクは続けて舌を絡める。唾液があふれてきて、固い表面を伝った。それをまた舐め取って舌に染み込ませる。ボクの舌はまるで意思を持った生物のように動き回って、ボクは呼吸ができなくなる。もう耳だけではなく、眼球もろくに機能しないみたいだ。脳なんてとっくにただのお飾りになっている。ただ重いだけの、そう、漬物石みたいなものだ。ボクの頭は漬物石だ。笑いがこみ上げてきて、余計に息が苦しくなる。奇妙なしびれが脳からつま先まで素早く伝って、感電した魚みたいにぶるぶると震える。 ズボンをおろさないままパンツだけずりおろす。素肌がごわごわした布に直接触れて、言いようのない快感が体を駆け抜ける。笑う膝小僧が何度か洗面台の下の収納スペースにぶつかる。 「あっ…はぁ、はぁ。ぐっ…あ、」 熱に浮かされたように体全体が熱くて、まだ触ってもいないのに既に勃起している。腰を引いて、おそるおそる前のふくらみに手を伸ばす。触りたい、触って、握って、手でこすって、達してしまいたい。洗面台に擦りつけたらどんなに気持ちが良いだろう。普段とは違う状況で、自分の痴態を見ながら、かたい壁で達するのだ。上の空で少しずつ洗面台に腰を近づける。息が上がって、想像だけでイきそうになる。 「も、無理、むり、だ。むりだよロス!」 一昨日もしてあげたのに、またですか。そう馬鹿にするような声が響く。全然足りないんだ、と脳内に向けて抗議の声をあげる。ロスがもっとしてくれないから、こんなことを覚えさせてしまったから、だからボクはロスがいつ帰ってくるかもわからない時間をあえて狙って、こんなにはしたないことをやっている。ロスが帰ってきたらどうしよう、何を言われるのだろう。きっとびっくりして、でもすぐに口元を歪めて言うのだ。あの綺麗な唇を開いて、愉悦をにじませた声で、容赦なくボクを叩き落とす。 「××」 腰がずり落ちそうになるのを洗面台につかまることでとどめた。そのはずみで性器が触れて、せり上がるものをどうにか食い止めようと右手で竿を握りこむ。 「ん、ァっ!」 我慢して我慢して我慢我慢我慢我慢!!!へその下あたりに得たいの知れない衝動が走って、それらを押しつぶすように掌に力を入れる。大丈夫まだ大丈夫と自分に言い聞かせるように呟いて掌を開く。強く握り過ぎて萎えてしまった性器を手でなでる。 口の中が乾いてしまって、荒々しい動作で蛇口をひねる。そのまま顔を近づけて直接水を喉に流し込めば、飲み切れなかった水が顎を伝ってシャツに染みを作る。胸元に濡れた服がへばりついて、冷たさに背中を震わせた。 「冷、たぁ…っん。」 夢中で乳首を弄って、声を上げる。じんわりとした冷たさが、余計に興奮させた。こんなはずじゃなかったんだ。鏡には見たこともない顔をした自分が映っていて、嘲笑うように指をさしてくる。目を背けて見ないようにしても、羞恥心と後悔と期待が胸を焼く。脳内が卑猥な映像で占められていって、まともな判断ができなくなる。もっと気持ち良いことがしたい、もっともっと馬鹿みたいに乱れ切った姿を映したい。 時計の針は午後三時を回ったところだ。ロスが帰ってくると告げた時間から、もう十分以上たっている。彼はいつも五分前には必ず帰ってくるから、こんな風に時間を過ぎても帰ってこないことはあり得ないことだ。ボクはそんなことにさえ頭が回らず、あるいはわかっていて無視をして、悦楽行為に耽る。今日はたまたまロスは遅く帰ってくるんだ。そういう日もあるかも知れないじゃないか。左脳のどこか隅の方で、そんなはずはないと叫び声があがっている。それでもやめることはできなかった。もしロスにバレてしまったら、それは死にたくなるほど恥ずかしくて、絶望的で、いやらしくて、あさましい。でもボクは知っている。それが余計に快感を高めるのだ。ボクのこんなところは誰も知らない、ボクだって知らなかった。男を誘うような顔をして、自分の恥ずかしい姿で勃起させている。理性なんて全部ふっとんでしまって、もうえっちなことしか考えられないんだ。 頭の中で思いつく限りの罵倒を並べて自分を責め立てると、お尻がうずいてしかたなかった。早く奥まで欲しいんだ。内壁を抉りこんで奥のあの、ごりごりとした場所に、もうこれ以上は進めないってところに侵入して、女の子のように高い嬌声を上げて精をまき散らしたい。彼が自分をさげすむ瞳は冷たくて、そして同時に焼き切れそうなほど熱い。赤いガラスの中では火が燃え上がっていて、ボクを内側から焼き殺す。その熱があんまりにも熱いから、ボクは口の端からよだれをこぼして、犬のように浅い息を繰り返し、はしたなく声をあげて許しを乞う。それでもロスは笑ったまま許してくれなくて、ボクがイくと叫ぶと、その綺麗な指でボクの亀頭を押さえる。ボクは狂ったように罵りと嘆願の言葉を交互に吐きだして、 そのうち壊れた機械のような音を出して身体を痙攣させる。 ド、ラ、イ、オ、−、ガ、ズ、ム やってみたいと思ってしまった。体内の中を巨大な蛇がうごめいて、今にも叫びだしたいくらいだ。 「ロス、ロス!ロ、ス…!」 名前を呼びながら腰をすりつける。これ以上はまずい、早くやめにしないと、と頭の中で警告音が鳴るけれど、ボクの身体は命令をきかずにずっと動いている。 そのうち本当に頭が狂ってしまって、笑いながら目の前を見ると、涙でぼやけた視界に反転した時計が映った。午後三時二十分と、よんじゅうはちびょう。あれぇ、とボクは思う。ロスはもしかして、三十分に帰ってくるんじゃなかったっけ。そうだ、そうに違いない。だって彼がなんの連絡もなしにこんなに遅くなることは絶対にないのだから。なんだ、ボクが誤解していたみたいだ。今ここでこの熱を発散させて、洗面所を片付けてしまえば、何の問題もない。不審な挙動をしなければ何も悟られないはずだ。ほんの少しだけ不満に思った心を見なかったふりをして、ボクはまっすぐに鏡を見る。 鏡の中のボクはもう笑っていなかった。一人だけ冷静な顔をしてこちらを見ている。性器を丸出しにして、頬を紅潮させているボクを、何の温度もこもっていない瞳で見つめる。 ひどい、嘘つきだ。裏切り者じゃないか。お前だって興奮していたくせに、お前だって楽しんでいたくせに!タオルを投げつけるとあっけなく像は消えた。さっきまで熱に浮かされたようにボクと交わり、ボクを辱めていたものは跡形もなく消えた。ボクは慌てて鏡に手をつくけれど、そこにはもう狼狽えるボクの姿しか 写っていない。もやが晴れて、視界がクリアーになっていく。耳も目も、脳みそも、みんなボクのもとに帰ってくる。間違えることのない温度、間違えることのない音、間違えることのない空気。目をつぶって、耳をふさいでも、どうしたってわかる。三時二十三分十七秒でジ、エンド。ボクは怖くて怖くてたまらない。怖くて怖くて怖くて、そして 「続きは?そこからどうするんです?」 すっごく興奮しているんだ。 |