Tea
Darjeeling


 夢の中でトイフェルはたくさんの魂に出会う。すべて自分が刈り取った魂だ。彼らの中には長い年月を経てトイフェルに感謝するものもいるが、大抵は憎悪の感情を向けてくる。トイフェルはそれらをどうするでもなく、一つため息をついて背を向ける。

 魂の魔法使い。

 物心ついたときには既にそう呼ばれていたから、魔法についてわくわくするような夢も期待も持ち合わせていなかった。上の名でも下の名でも悪魔と呼ばれ、特にどこを制服したいという欲求があったわけでもなかったが、ちょうどその時暴れまわっていた魔王に何の疑問も反抗心も持たずについて行ったのだから、それだけで十分悪の使いだったのだろうと今では思う。

 ただそんな悪の手先であった自分にも、城に来て、ヒメ様と出会って、彼女の読む子供向けファンタジー物語の中で様々な魔法使いと出会うにつれて少しずつ変化が生じてきた。良い魔法使い、悪い魔法使い。こんな分類があるなんてことが驚きであった。今までずっと、魔法は誰かを倒すためのものであると思っていた。魔法に良いも悪いもなくて、あるのはただ強いか弱いかだけであると思っていた。

 良い魔法はきらきらと輝いていて、壊れたものを直し、傷ついた人を癒し、人々を喜ばせていた。俺は自分のてのひらを見て、にぎって開いて、幼いヒメさんに聞く。

「もし俺が悪い魔法使いだったらどうしますか。」

 泣いてしまうだろうか、それとも、そんなことはないと強い口調で詰るように言うのだろうか。あるいはそんな執事はいらないと、ヒメ様にやっつけられてしまうのだろうか。それも良いかも知れないな、と目の前で揺れ動くきれいな青い灯を眺めていると、彼女はそのどれでもないことを言った。

「簡単よ。使わなければいいの!」

 俺はきょとんとしていただろう。魔族として生まれ、組織の中で生き、自らの力を持ってその日の命を繋いでいた俺にとっては、力を使わずに生きるということは想像もつかない選択だった。それをこの幼い子は、俺の何分の一かも生きていない中で知っていた。きっとたいしたことは考えていないのだろう。この子供はこれからもっとたくさんの時間を生きて、今日のことなんて記憶のかなたに忘れていってしまうのだろう。でもそれで良い。大事なことは全部、俺が覚えている。

「できますかね。」

「できるわ。」

 私が貴方を守ってあげる。

「そう、ですか。」

 そうしてその日から、ここが俺の家になった。