※SQのようなそうでもないような 無知蒙昧 彼が今目を開けたら、一体どんな反応をするのだろうか。驚いて、状況を理解するのに数秒を要して、やっと把握して絶望色に染まって、助けを求めるような目で原因たる自分の方を見て、そんな様子を心ゆくまで堪能して、俺は彼の顔に精を吐きだす。 生臭いにおいに顔をしかめ、目を閉じたまま口元にべったりとついた精液をぬぐう。唇にこびりついたものが口内に入ったのか、慌てて舌を出して爪の先でひっかく。あぁ、そんなことをしてもどうせ無駄であろう。俺はすかさず三本の指を彼の歯茎にあてて無理やり口を開かせる。抗議するように開かれた目が、これから起こることを認識して、一層大きく見開かれる。 ぐいぐいと指を押し込めば、ざらりとした舌が懸命に押し返そうとしてくる。中指で上顎を押さえ て、親指と人差し指で赤い舌を引っ張った。喉の奥から息と一緒に小さい悲鳴があがる。そこまで想像したところでばちりと目玉が開く。まったく思った通りの反応をたっぷり15秒かけて行なってくれた彼を見て笑った。 「ちゃんと食ってくださいね。」 興奮を隠しきれずに、少し早口になった。眉がよって、彼が苦しそうな顔をする。苦しそうな、ではなく、実際苦しいのだろう。その様子に俺は乾いた笑いをこぼして、遠慮なく喉の奥に突っ込んだ。 濁音ばかり。濁音ばかりだ。不細工な顔をして彼はうめき声を上げる。別に暴れられるのも良いんですけどね。今日はちょっと面倒くさいのでお手を拝借。遠慮なく手首を掴んで板張りの床に叩きつける。 「あー…苦しいですか?ですよねー苦しいですよねー。」 その顔、もっと見せてください。 口の端を涎が伝い、一層醜い顔ですね、と笑う。 それにしてもそんな目で俺を見ないで欲しい。さっきは困惑の色が強かった瞳は、5gほど敵意に傾いたようだ。昨日まで一緒に旅をしてきたのに。あぁ違うか。これは俺個人に対する敵意じゃない。この行為に対する敵意ですね。勇者さんは苦しくてつらいことが大嫌いだから。それなら苦しくないことをしましょう。ちょっとは痛いかもしれない、でもそれは日々の鍛錬のおかげで慣れっこでしょう。もしかしたらより気持ち良くなれるかもしれない。俺が与える行為を拒否する心なんて、どうせ貴方は持っていないのだから。 「ぅ、は、はぁ…ふ……っは、あ。」 頭を後ろに床に押し付けて彼の口から自分のものを引き抜く。口内の肉が名残惜しそうに離れていく。引き抜いた途端、拘束されていた手を振りほどいて咳込んだ。懸命に口を拭ったり顔を触ったり、忙しない動きに喉の奥を鳴らすと、やっと気が付いたのか弱い二本の腕で突き飛ばしてきた。 「苦、し。」 そのまま咳込んでつらそうに右の手のひらを肺のあたりにあてる。俺はいつものように彼の背中をどんどんと叩く。なんで叩くの、だとか叩かないで、とか、やめてとか、そんな声が途切れ途切れに聞こえて俺は嬉々としてその口を鼻ごと手で覆う。 首を振る勢いが弱まってきたところで手を離してやると、短く一度息を吸ってから身を縮こまらせて激しくえづいた。 「苦しかったですか?つらかった?」 「苦、しいに!決まって、んだ、ろ…!」 先ほどと同じ問いを投げかけてやれば涙目で抗議された。今日のはやりすぎだ、と諭すような言葉も追加される。違う。違うんだ。そんなのが聞きたいんじゃないんだよ。 「はは、じゃああんた、どこまでだったら許したんですか?苦しくなければ?首を絞められなければ?気持ちよければ?…馬鹿じゃないですか。」 肩を押すと簡単に床に倒れた。ほらこうやってすぐに油断する。起き上がろうとする体に膝を押し付けて肺を圧迫する。 顎を掴んで固定して口と口をくっつけた。勢いをそのままにぶつけたから歯があたり、彼の切れた唇から錆びた味がした。舌の先でつつくように舐めると、傷口にしみたのか顎が少し引かれた。 「じゃ、勇者さん。気持ちいいことしましょう?」 本日最高の笑顔で言ってやれば、観念したように目蓋が伏せられた。 あまり声を出さない主義なのか、それともいっぱしにプライドなんてものを持ち合わせているのか、たまに飛び出す上ずった声もすぐにシーツの中に吸収される。気持ちいいことって言ったんですけどね、俺。気持ちよくなっちゃえば良いのに。 勇者さんの腰を持ち上げて、かたい骨の上をなぞる。肉があって、骨があって、血とか体液とかそういうわけのわからないものがこの中にある。重さにしたらたかが数十キログラム。ばらばらにしたらそれはもう勇者さんではない。それならば彼を彼たらしめているものはどこにあるのだろうか。そういうものこそちゃんと数値化して、計量できるようにしておいてほしい。そうでなければいつか自分はこの得体の知れない重みに耐えかねて溺れてしまうだろう。 だから 俺はこの重みに気が付かないふりをする。どうせ無知で無力な勇者さんはわからない。俺が教えなければ、この人は何一つ知らないままなのだから。そういうふうに育ててきたしそれで良いと思っている。これからもそうするつもりだし、いつまでもそうであってほしいと思っている。 明日になったら今日のことは水に流されるのだろうか。いや、流してくれないな。流石の彼にもこれは堪えるだろう。あついあついとうわ言のように繰り返す勇者さんの背中に額を押し付ければ、一秒だけ動きが止まったような気がした。 「勇者さん、勇者さん、気持ちいいですか。」 がつがつと肉を穿つように内壁に叩きつける。押さえ込む力が強すぎて、彼の腰には赤く指のあとが残っている。首筋を舐めると怒ったように首を振って拒絶された。 「ぁ…っ!いた、い。も、やめ、って!」 「痛いんですか?そんなことないですって。ほらちゃんと動いて。」 「ねぇ、なんで俺がこんなことするかわかってますか?」 「ん、ぁっ。ぐっ…んん、う……。」 「俺いつもあなたにひどいことするじゃないですか。それの謝罪です。たまには痛いことじゃなくて、気持ちいいこともしてあげようと思って。」 「も、やだぁ…!やあっ!!っぁ、やめて!」 「五月蝿いなぁ。」 少し強めの力で肌をぶつと、しまりが良くなった。こんなところでドエム根性を発揮しなくても良いだろうに。 勇者さんが声をあげるたびに俺の脳内でやかましく機械音が鳴る。針金をかき混ぜるような痛みが脳髄を貫く。それを振り払うようにまた勇者さんの中に自分を押し付けて、頭の中で彼の首を絞める。 好きだった。愛おしかった。守りたかった。幸せにしたくて、同じくらい不幸せになって欲しかった。願わくば彼にもそう思っていて欲しくて、もしかしたら通じ合っているのではないかと、根拠のない自信に舞い上がることもあった。スポンジのように自分が言う事を吸収し、新しい道理というものを教えてやれば顔を輝かせて喜んだ。未分化な彼の中で、自分は確かに多く存在を残しているだろう。それでも信じられないのだ。信じられないと思うことさえ罪なのだ。成長するという人間の義務と権利を取っ払って、手の内に閉じ込めようとした者のことを誰が許すだろうか。 「大丈夫です。どうせ貴方は、いつもみたいに俺を許します。ひどいなんて思うのは今だけです。」 汗が落ちる。ぎこちない動きでも熱は生じたのか、額を伝って彼の背中に落ちた。 「う、あぁっん、あ!…っは、うぅ…ん、んんんーっ!や、やぁっ…!」 喘ぎ声が徐々に大きくなり、ぐちぐちと音が漏れる。耳も首も肩も全部、彼を構成するすべてのものを食べてしまいたくなって肩甲骨を掴んで歯を当てると、微かに何事かを漏らす声が聞こえた。 「なんで、なんでだよ…ぅっ、ぁあ………ぁ…。」 「なんででしょうね。」 「だ、てお前…!」 「黙って。」 なんでそんなに悲しい目をするの、とか、そんなつまらない言葉はいらないから。俺は悲しいと思っているわけではないし、仮に無意識にそんな目をしていたのだとしても、それに返す言葉は持っていない。 「いじめですよ。いじめ。いつもと同じ。」 俺は歌うように言った。目を軽くつぶって、軽やかに言った。腰を揺さぶるスピードは緩めずに、さえずるように言った。 「いつものいじめと同じですよ。いつもみたいに貴方は俺の暴力に怯えて、泣いて、怒って、また殴られて、諦めてそれで全部を受け流せば良い。どうせ貴方の中には何一つ残っていないんでしょう。昨日も今日も明日も、一カ月先も一年先も、同じ毎日同じ繰り返し。俺が何をしても許してくれる。でも知ってますか、それ許してるって言わないんですよ。あんたはただ何も感じようとしていないだけだ。そうやって責任をすべて放棄しているだけだろう!自分で学ぶこともせずに、俺に付け入らせて、それで、だから、だから俺はずっと貴方に引け目を感じている。どうしてそのままでいられるんですか。俺は貴方に言ってないことだってたくさんあるんです。自分の都合の良いように、知られたくないことを知られそうになったら、いつも貴方の耳を塞いで、目を覆った。おかしいと思わないんですか、それを止めようと思わないんですか。知らないことを、恐ろしいと思わないんですか。」 「だって、お前が全部面倒見てくれるんだろう。」 彼は確かに澄んだ声でそう言った。何も疑わない目で、俺を見て、腕を伸ばして引き寄せた。だって、ロスがボクのすべてじゃないか。 「今更逃げようとしないでよ。やだなぁ、流すわけないでしょ。許すわけがないだろ。何も知らないボクだって、流石にこの行為の意味くらいは知ってるよ。駄目だよロス。こういうのはちゃんと好きって言ってから、貴方のことが好きです、貴方はどうですか、って聞いてからじゃないと。ね?」 「…はい。」 「ありがとうロス、ボクも大好きだよ。」 だからもう、勝手に逃げたりしないでね。 |