もう一ミリもない


「お前…これ全部自分で?」

 アキラの部屋に来た。成り行きで。大して意図はなく。計画なんてものも、なく。

 男の一人暮らしなんて、どうせ缶ビールやら丸まった衣服が転がっていて、急な来訪者に申し訳程度に隠されたエロビ、そんなもんだろうと思っていた。こちらとしては、そんな堕落しきった年上の生活を見ることで優越感でも覚えてやろうと思っていたのでほぉう?これは驚いた。意外と片付いていやがる。
 うっわきったね!俺座る場所ねーじゃん、片づけるからどけよ、なんて、準備していた言葉をハーフパンツのポケットの中で握りつぶした。あーあ、折角綺麗にしてやろうと思ってたのに。俺が。

 遮光カーテンではないらしい。西日が隠れきれていなくて、目が防衛反応をした。そのとききらっと、光を受けて反射したのが机の上に散らばるそれだった。大量の薬。きれいなやつ、そう、サプリメント。
 見れば小さな棚には、わざわざ分ける意味があるのかわからないほどぎゅうぎゅうに、様々な液体スープのもとや、瓶に入った粉。なんだかよくわからない透き通ってぷちん、とはじけそうなカプセルがたくさん転がっている。
 健康食品オタク、だそうだ。冷蔵庫の中にはもちろん野菜ジュースと、ラベルにごちゃごちゃと、効能だとか一日の摂取量だとかが書かれた飲料水が入っていた。

「たばこをな、吸うだろう。」

 だから、健康に良いものをとろうと思っているんだ、なんて。たばこやめろよ。

 サプリメントを、何が何であれがそれで、どれがそれだかわからないサプリメントを、アキラは口に放り込んでニ秒もごもごと頬を動かした後に、嚥下した。喉仏が動いたなぁ、と思った瞬間に奴の手は煙草にのびており、ほどなくして立ちあがった煙にあーあ、と、二人でため息をもらした。


 サプリメント、一粒だけ、睡眠薬に取り替えました、って言ったら、信じるかね、この男。