午前四時の雷鳴


 長く重たい雷鳴の音で目を覚ましたのは午前四時。昼間に聞くものよりも数段恐ろしいものだった。とは言えこうして寝そべって、扇風機の首にしがみついている自分に危機感なんてものはまったくない。皆無だ。だって雷に打たれて死ぬなんて、あまりに突拍子もない。それに俺は死ぬなら死ぬ瞬間まで衝動的に生きたいんだ。この血液が逆流して、相手の眼前をすっかり真っ暗にしてしまうのを見届けてからでないと死ねないのだ。

 あいつはすっかり濡れて帰ってきた。パーカーを脱いで床に放り投げる。水分を吸って重たくなったパーカーはべしゃりと重力に従って落下した。

「まーた妙なことに首つっこんでんのかよ。」

「窓くらい閉めたらどうだ。」

「冷たくて気持ち良いぜ?」

「散々浴びた。」

「もっともだ。」

 床に雷の光が反射して、追って低い音が唸る。浮かび上がったシルエットがかしぐ。

「あっためてやろうか?」

「今日は槍が降るのか?」

「どうだろうな。」

 午前の四時。伸ばした手が床に落ちていたスマートフォンを探しあてて電源をつけた。ざらざらとノイズが混ざるニュースを聞いた。雷の光が画面を青白く照らして、無機質な顔したニュースキャスターが一層機械人間のように見えた。

 踏切で猫が死んだんだそうだ。よくわめく猫だった。この家にも何度か訪れては、他愛のない話をして帰っていった。可愛らしい猫だった。とは言っても、僕自身がそう思ったわけではなくて、俺自身がそう聞いたわけではなくて、おそらくは世間一般で言うところの可愛らしい猫だった。猫はよく鳴いていて、ときたま人のことをひっかいた。僕はその猫の名前を記憶していないし、俺はその猫と深い思いを共有したわけではなかった。一つ記憶していることと言えば、そう。彼女はきらきらした少女であった。

「雷、すごかったろ。」

「あぁ。」

「だからだよ。」

「そっか。」

 お前の、せい、

「おやすみ零崎。」

 じゃ、

「あぁ、おやすみ。」

 雷はまだ鳴っている。