おおきなはっぱがある森



 子供はおおきな物が好きだ。そして気に入ると何度も嬉しそうに確認しては、
「見て!」
 と、そう。
「はいはいもう見ましたよ。何回言わせるんですか。」
 手を広げても足りないくらいの大きな葉っぱを大事に抱えて勇者さんは振り向く。これで四回目だ。
 頭の上に広げて、両腕で抱えて、手のひらをぺったりと張りつけて、また嬉しそうに笑う。
「だって、こんなに大きいは葉っぱなんて初めて見るんだ!」
 固い葉の表面を軽く叩いて勇者さんは言う。雨が降ってきたらこれをさすんだ、と、得意げに言ったそばからぽつぽつと水滴が落ちてきて、俺は眉をひそめる。
「ちょっと、勇者さんがそんなこと言うから本当に降ってきたじゃないですか。」
「えー!ボクのせいじゃないよ!!」
 そう言っている間にも次第に雨脚は強くなってきて、「傘」をさしている勇者さんとは対照的に俺はぐっしょりと濡れていく。
 不快な感情を隠さずに顔を出すと、勇者さんは何事か二、三言ぼそぼそと文句を言ったあと、そのお気に入りの傘を俺に差し出して言う。
「馬鹿は風邪ひかないからね!」
 彼はそう言ってから慌てて訂正する。「あ!でもボクがばかだってことじゃなくて、でも風邪もひかなくて、だからその、ええと。」
 その姿を見て本当に馬鹿だなぁ、と呆れたように俺は笑う。隣に並んで二人の真ん中で葉の柄を持ち、肩が濡れるのを感じながら思うわけだ。
 でもまぁ、風邪ひかないなら、馬鹿になっても良いかもな。なんて。