花の咲く庭



「これは?なぁ戦士これはなんていう花なの?」
「知りませんよ。さっさと歩いて下さい。」
 あたり一面に花が咲き乱れる。先程からつれない返事ばかりしているのに、この勇者はめげずに尋ねてくる。
 もういちいち確認するのも面倒で、本当はそれ、ガザニアって言うんですよ、とか、キンレンカです、とか、そういった言葉を飲み込んでは知らない知らないと繰り返す。
 そろそろ察して黙ってくれないかと思いながらずんずんと歩を進めるが、やはりこの勇者諦めだけは悪いようで、結局十回以上は知らないと嘘をついた。
「戦士でも知らないことってあるんだな!」
 何故だか誇らしげに言うその顔面を容赦なく殴りつけて文句をたれる勇者を引きずって歩く。あんたのせいで次の町につくのが夜になりそうなんですけど。野宿したいんですか、と、聞けばしぶしぶといった様子でついて来た。
「あ、待って待って。これだけ、これだけ最後に教えてよ。」
 彼は紫色の花を指し示して、期待するようなまなざしでこちらを見る。
「だから、知りませんって。」
 前十回と同じ言葉を返すと、彼は笑って言った。
「じゃあ教えてあげるよ。この花はさ、」

 どうしてか今日一番の力で殴られ、ぎりぎりと痛みを訴える腹をさすりながら戦士のあとを追いかける。最後に振りかえって、返事をするはずもない植物に手を振って別れを告げる。 
 またな、シオン。