犬 死んじゃえばいい。 僕は常々そう思っている。この部屋の主にも僕をこの部屋に連れてきた人間も、僕に毎日毎日愛してるとうそをつく人も、昨夜僕に痛みを植え付けた折原さんにも。 死んじまえ。 僕なんかじゃとうてい殺せないような人だから、何か災いがふりかかって、それで無様に地面にひれ伏せばいい。もう二度とあの人の言葉は聞かなくて良いし、もう二度とあの人に翻弄されなくてすむ。 僕は自分の手を汚すのも、僕が好きな人の手を汚させるのも嫌で、だからやっぱりどこからか出てきた魑魅魍魎に頭を食い尽くされればいいと思っている。 僕をこの部屋につれてきて、以来ずっと出してくれない人。 死んじゃえ。臨也さんなんか死んでしまえ。 死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。 (今度面と向かって言ってみようか。) この部屋はカードキーだから、ドアノブを捻る騒々しい音とは無縁なはずなのに、何故だか臨也さんはいつも、必要以上に音を立てて帰ってくる。 玄関の靴を見たのか、「帝人くん、まだいたの?」という呆れたような声。僕はどうやっても鳴らない手錠を鳴らそうと躍起になる。この部屋に鏡はないからわからないけど、きっと、絶対首にはひどい鬱血のあとが残っているはずなのである。 だって昨日も一昨日もたくさん愛してくれたでしょう、臨也さんが。 自分のしたことを忘れるなんて本当に死んでしまえばいい。僕は臨也さんのせいでここから出られないのに。 僕の制服はどこにあるんですか。今日は体育なんです、こんなんじゃいけません。僕の携帯は、正臣に連絡を。助けて、正臣助けて。臨也さんが僕を閉じ込めて出してくれないんだ。この部屋の鍵がどこにあるのかわからないんだ。 臨也さん開けてください開けて、開けろって、言ってる、だ、ろ!僕は帰るんだ。僕は家に帰るんだ。臨也さんなんか死んでしまえ。死んじゃえ。早く早く早く早く死んじゃえ。 「帝人くんさぁ…。」 こんな子じゃないと思ったんだけどなぁ、という臨也さんがよくわからなくて、僕はとりあえず、「ワン!」と、鳴いておいた。 |