※ツイッタータグ遊び
※ばじこさんからタイトルいただきました第二弾!



シンデレラコンプレックスの一枚皮


 よく空が濡れている日だ。あいつは弱っていて、でも俺はそうでもなかった。
「俺を日常にすんじゃねーぞ。」
「知ってるよ。」
「うっそだぁ。」
「ホントだ。」
 一人にしないでって、背中が泣いてんぞ。そう言ったらきっとまたあの平坦な目で俺を見てつれない台詞を吐くんでしょうけれど。
 あと五分したら、俺はここを出ていけなくなる。弱っているあいつは珍しくて、確かに庇護欲をかきたてられて、ついでにちょっぴりその肉に鋭利なものを突き立てたくなる。でもそれじゃあいけないんだよなぁと俺は首を振って一歩一歩たて付けの悪いドアの方へと歩いていく。
 どうにか救ってやりたいなぁという気持ちはないけれど、どうにか突き落としてやりたいなぁという気持ちはある。あれをあれの形のまま終わらせてやるのは自分の役目であるような気もするし、そうでない気もする。
 ただどちらにせよここには長くとどまりすぎたようだ。二人を二つに分かち、同時に一つに統合していた恐怖とか、憎しみとか、愛情とか、そういうのがどうにも薄れてきてしまって、このままじゃあ1+1が、零。
 概念的なものはさておき、いっそここで物理的に1を作りだしてしまうのも手かしらと具合を確かめるように手を振っていると、視界の端に珍しく調理器具を持ち出す男が映る。
「自分を殺そうとしてる奴に飯を振る舞うとは―なんともお前らしいな。思いとどまれってか?こっちはお前さんらしくないな。」
「自分が殺しそびれた奴の肉を食べるのか?とうとう殺人だけじゃ名を売っていけなくなったか。」
 どうせ死ぬ気なんてないんだろう。もう死ぬ気なんてないのだ。
 中途半端に他人の生を押し付けられて、今のこいつはその集まりを自分の命と勘違いしている。可哀想とは思わない。人間なんてそんなものだろう。こいつもやっと人間っぽくなってきたってことだ。赤飯炊いちゃうくらいだ。そのろくに切れない包丁で豪勢な夕飯でも作っちゃいたいくらいだ。
「零崎。」
「あぁ?」
「ピンチになったら、」
「さっさと死ね。」
 今のお前にゃ殺す価値もない。