※イタリア男の本気





 スペインの夏は茹だるような暑さだ。体の一部はきっと本当に茹だってしまっているに違いない。まとわりつくような熱気と、かすかにかおる汗のにおいに毎度辟易しながら過ごしている。
 に・ゅ・う・す・ぺ・い・ぱ・ぁを捲りながら、口の中のぬめりをどうにかやりすごそうと躍起になる。ジェラート、そうジェラートが食べたい。ソファの向こう側でぼう、っと庭を眺めている青年の人間が生み出した食べ物だ。
 額からしたたち落ちてきた汗をぬぐいながらその背中を見つめていると、青年が起きあがって、かすかに微笑みながら口を何かの形に動かす。
「スペイン」
 と、そう空気が震えて、なんや、熱いなぁ。と思う。熱い声だった。溶けてしまうくらいに。
 午後の一時をまわって、本当にもう、殺人的な暑さで、脳みそはイカレてしまっている。勘弁したって、と項垂れれば汗が瞼を走ってまつげをぬらした。
 すうっと首の横を生ぬるい空気が通る。気がつけば愛しい愛しい少年が自分の横まで来ていて、その、いつの間にか大きくたくましくなった手のひらを耳の横にまで近付ける。
「なぁ、スペイン。」
 薄い唇が寄せられて、触れるか触れないかのところまで侵入を許したときもジェラートのことを考えていた。
 せやなぁ、うん、うん。と、きっとジェラートをねだるだろうこの子どもに先んじて相槌を打つ。
「好き好き、大好き。結婚したって。」
 40℃を上回る、真夏日だった。