※タイトルあそびご容赦
※カフェ店長ロマーノと客ベルト



メロメロロマンティック


 がらんがらんと、店のドアにくくりつけたベルが鳴る。開店前に来る客は決まっている。店の中に置かれたCLOSEの板を脇によけてポケットに手をつっこみながら銀髪の男はやって来る。
「心優しい俺様が今日も来てやったぜー!」
 独特の笑い声をあげながらカウンターに紙幣を置く。一杯75¢だったコーヒーが値上がりしたのはこいつが来るようになってからだ。小銭が増えることを疎んだ彼は釣り践を受け取らない。おかげでレジ中には同じ種類の硬貨ばかりがたまっていく。すべてこいつが寄こした金だ。なんたってこの男の他に客など一人もいないのだ。
 ロマーノが経営するカフェは少し前に閉店した。だからここにはもう従業員はいない。気の利いた音楽もないし、もちろん金だってない。金がないからギルベルトに出すコーヒーはいつも自分と同じインスタントのものだ。
 カフェが閉店してから今日でおよそ三カ月になる。ロマーノとギルベルトが出会ってからと同じだ。30日×三カ月分。雨の日も風の日もかかさず通い続けたおかげで、レジの中はユーロがじゃらじゃらと音を立てている。
「おーおー結構たまったな」
 カウンターから身を乗り出してギルべルトが言った。それをうっとおしげに払いのけてロマーノは言う。
「そろそろだな」
「なんだよ、なんか買うのか?」
「結婚指輪」
 きゅーりょー三カ月分らしいぜ。お前の指は三カ月前から俺のものだったんだよバカヤロー!楽しそうに笑いながらロマーノが彼とギルベルトの薬指に輪を描いて、どうだ、驚いたか!とふんぞり返っていると、「全然足りねーよ」と言った男が、カウンター越しにロマーノの耳を捕まえる。

「俺と結婚してください」
 かっこつけさせろって、お兄様。さりげない動作でロマーノの手を取り、その髪と同じ銀の指輪を滑らせる。ロマーノの描いたまるいリングの線に、それはぴったりと収まった。